社会人になると学生の時に学んだ知識が、不意に役に立つときがあります。その一つが数学の授業で習った「ベン図」です。丸と丸が重なり合う、確率の問題で私たちを苦しめたヤツです。
実はベン図は、情報を整理するときに役に立ちます。ここではビジネスで役立つベン図について、メリットから作成方法、使い方まで網羅的に解説します。
目次
ベン図とは?
ベン図とは「複数の要素(情報や属性など)の領域の重なりを図示する手段」です。主に情報を整理するときに使用します。
例えば「営業ができる人」「会計が分かる人」をグループ分けしたとします。この時、「営業もできて会計も分かる人」というのは、どちらのグループにも含まれています。
ベン図では「営業もできて会計も分かる人」がどれぐらい存在するのか、2つのグループ間で重複している部分に注目することができます。
一方でベン図に似た概念(フレームワーク)として「MECE(ミーシー)」があります。こちらはベン図とは異なり「要素漏れや重複を許さない」というのが特徴です。
要素の重複に注目したいときはベン図を、漏れや重複を許さずに細かく考えたい場合はMECEを使うようにしましょう。
ベン図のメリット
ベン図は異なる要素の共通項を見つけたいときに便利なツールです。「会計ができる人」「営業ができる人」「両方できる人」それぞれのグループの大きさを把握したい時にも便利です。しかし、ビジネス上ではより複雑な要素が絡み合います。
たとえば上記の条件に加えて「パソコンに詳しい人」「ビジネス英語が使える人」も表現する場合、ベン図を使わずに表現するのは大変です。
もちろんグラフやチャートでまとめることはできますが、一目で理解するにはベン図の方が分かりやすいです。
視覚的な情報整理
複数の要素を比較するだけなら文字ベースでも問題ありません。しかし、クライアントへのプレゼン時など説得力が求められる場面ではベン図を利用すると効果的です。
プレゼンでも同じように、文字を並べた資料を用意するより、視覚的に分かりやすいベン図の方がクライアントに見せるときに関心を引きます。
複数の選択肢の比較
複数のサービスを比較するときにもベン図は利用できます。似たようなサービスを比較したい時に「同じ部分」と「異なる部分」を明確にできます。よって、他社製品との差別化や商品購入時の参考になります。
たとえば音楽の定額配信サービスをイメージしてみましょう。運営会社によって保有している楽曲数が違うので、ベン図で比較してみると視覚的に違いが把握できます。
また別の見方での分析もできます。全体の楽曲数だけでなく、邦楽と洋楽、音楽のジャンル、特定のアーティストの楽曲数で比較してみる事も可能です。
論理的問題の解決
「営業が得意な社員」「事務が得意な社員」の例でも明らかですが、ベン図は論理的な問題を解決するのに役立ちます。
上記の例のように、仕事をしていると論理的な処理を求められる問題が発生します。
データの比較
目的別に複数のベン図を作成することで、異なるサービス・商品間のデータ比較が可能になります。
自社製品の新型を発表するときにプレゼンで使ったり、他社との比較用にベン図を作成したりすると視覚的に分かりやすいです。
ビジネスにおけるベン図の使用例
人事担当者であれば、社員の異動を考えるときに役立ちます。「営業ができる人」「事務ができる人」など属性ごとに比較して、部署ごとの構成を考えることができます。
また以前の製品と比較してどこが変わったのかを視覚的に表現しやすいです。
気をつけてみると、いろいろなところにベン図が使われています。
ベン図の歴史
ベン図の由来はイギリスの論理学者ジョン・ベン氏と言われています。ベン氏は1880年の論文で、ベン図について述べています。しかしベン図の起源はさらに古く、少なくとも1200年代には存在したものとされています。
論理学者や数学者の研究のおかげで、集合の数が増えてもシンプルに表現できるように、過去と現在ではベン図の形状を変更した点もあります。
ベン図の書き方は簡単です。異なる2つ以上のサービス・製品の要素の重なりを描画するだけです。
ここでは、具体的にベン図の作成手順や活用法について解説していきます。
目標を明確にして、比較する集合を選定する
「会社の目標」「従業員個人の目標」という例には一つ注意点があります。それは「目標を具体的に数字で落とし込めているか」ということです。
たとえば会社の目標としている営業成績を100とすると、ある従業員個人の目標は50で良いと考えているとします。この場合、ベン図では2つの円がちょうど半分重なるようになります。
このように、ベン図で比較をする場合は対象が数字で表せないと正確なベン図とは言えません。
ベン図を比較しよう
会社と従業員の目標をベン図で作成すると、従業員分のベン図が出来上がります。今度は、それらを比較してみましょう。
ベン図の一致部分が多い社員から営業部に配属する、一致部分の少ない社員は他の部への異動を検討するなど人事戦略に活用できます。
ベン図は1枚のみでもデータとして有効ですが、ビジネスで活用しようとすると、複数枚になるケースが多いです。
ベン図にまつわるハナシ
最後に、ベン図にまつわる数学・ビジネス以外での活用例を紹介します。数学のイメージが強いベン図ですが、意外と活用されている分野が多かったので、ここでまとめて紹介したいと思います。
また、直接的にビジネスに役立つわけではありませんが、統計学やコンピューターサイエンス分野はコンサル・ITエンジニアにとって無関係ではありません。
ベン図のユースケース
ここでは様々な分野でのベン図活用例を紹介します。例えば「統計学」でもベン図は私用されます。
統計学では「特定の事象が発生する確率」を予測するためにベン図を利用します。異なる二つの事象を比較することで、お互いの共通点と相違点の程度を見極める目的でベン図が使用されます。
次は「論理学」です。特定の論点と帰結の妥当性を判断するために使われます。
たとえば「すべての犬が動物であり、ウチで飼っているポチは犬であればポチは動物である」という条件が成り立っているのか確認したいと思います。
論理式では犬はC、動物はA、ポチはBと表します。この時、すべてのCはAである。BはCである。したがってBはAである、という論理式が成り立つはずです。
これをベン図で表現すると、動物(A)という大きな円の中に犬(C)の円がすべて入ります。そしてポチ(B)は犬なのでCの円の中に含まれます。
言葉で論理式が正しいか理解するのは難しいですが、ベン図を使用すれば視覚的に正誤の判断ができます。
次は「言語学」です。これも言語間での共通性と相違性を研究するために利用されます。他にも「読解指導」では生徒が読書から読み取った情報を視覚的にベン図で表現させることで、読解力を向上させるという手法もあります。
あとはコンピューターサイエンス分野でもベン図は使用されます。階層を視覚的に表現するのに役立ちます。
ベン図の用語集
最後に、ベン図で使われる基礎的な用語について解説します。どれも直感的に理解できるものですが、改めて正しい理解を深めておきましょう。
集合・・・1つの要素の集合を表します。たとえば営業のできる社員が全体で50人いる場合、営業のできる社員の集合は50です。
和集合・・・2つ以上の対象の集合内のすべてを足した数字です。営業のできる社員と事務のできる社員をベン図で表現した時、「営業も事務もできる社員」が存在します。和集合を求めるときは「営業のできる社員+事務のできる社員ー両方できる社員」で求めることができます。
共通部分・・・2つ以上の対象の集合内の重複する部分を表します。営業と事務のできる社員のみを表した部分が共通部分です。
2つの集合の対称差・・・対称差を求めるときは「営業のできる社員+事務のできる社員-両方できる社員×2」で求めることができます。
ベン図をビジネススキルとして活用しよう
ベン図について理解できたでしょうか。意外と利用できるシーンが多いことを感じて頂けたかと思います。
ビジネスで使う機会があればぜひ積極的に利用してみましょう。